日帰り旅行の記録 〜タバルカ編

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 イシュケル公園を過ぎて、車はひたすらのどかな風景を抜けていく。市松模様の緑の絨毯、オリーブの畑、心地よい風。

 私は、この景色を覚えていようと思った。たとえ忘れても、この風景を見たら思い出せなくちゃ、嘘だと思った。もうお別れなんだなあ・・という想いがわき起こるのをとめられなくて。

 長い長い時間、景色はほとんど変わることなく続いた。まだまだ、海は見えない。

 途中、コウノトリを見た。去年、アルジェリア国境近くまで出かけていった友人が「コウノトリがあちこちに巣を作ってるんだよ」と言っていたけど、もう凄い。この辺りはアイン・ドラハムなどと一緒で、煙突のある家が多いのだけども、その煙突の部分や、モスクの屋根などに巣を作って落ち着いてしまっている。
 にしても、そういう家々の連なる町はそう多くなくて、道々続くのは、やはり畑や原っぱなのだった。

 12時半を過ぎた頃、延々丘の上り下りを繰り返す頃になって、さっきの町で昼食にしておけばよかった、と後悔した。行っても行っても、なだらかな丘の繰り返し、オリーブの畑も見えない、人気がほとんどない。
 このままタバルカまで町がない・・・ってことはないよね・・・?
 なんとか、1時過ぎ頃に町へ入った。カフェもあるし、なんとかレストランがありそうだ。
 適当に入ったレストランで、運転手は遠慮なしに2品くらい頼み、私たちは一番安い1.7DTの豆料理を頼んだ。適当に入ったにしては、そこそこおいしかった。
 Tくんがガイドブックを見たいというので見せてあげたら、そこで初めてタバルカの位置を知ったらしい、「ええっ、もうアルジェリアじゃないですか」と叫んだ。そうなのよ。タバルカはアルジェリアのすぐそばなのよ。ちょっと行けばもう国境なのよ。でも、その国境は遠い。越えたいけども、今は越えられないのだ。いつかきっと。そう思うけれども。
 (いや、越えたければVISAとればいいんだけど、やっぱしねぇ・・)

 そしてまた延々眠たくなるような道を越えていく。陽も傾きかけ、何時に着くんだー?と不安になった頃、ようやく、「タバルカ空港こっち」という標識が見えた。
 やった! タバルカに着いた!
「ねえ、着いたよ!」
 あんまり嬉しくて、寝ていた後ろの二人を起こしてしまう(^^

「ほら、海が見えてきた!」

 タバルカへ入ると、見えてくる家が、日本の建て売り住宅みたいに、同じ赤い屋根と白い壁、同じ間取り・・・。なんかこう見ると気味が悪い。日本に来た外国人もそんな目で見るんだろうか。綺麗だけれど、個性がない。さみしい感じ。

 運転手がまずどこへ行く?と訊いてきた。一度立ち寄ったことのあるというSちゃんを促すと、奇岩を見ようと言うので、そっちへ向かってもらった。途中で車を停めて、後は歩道を海岸まで歩く。

 歩道には、土産物を売る人が3人ほどいた。珊瑚のアクセサリーや、貝で作った置物を売っていた。その貝の置物、鳥を形取っているらしいのだけど、マジックで「TABARKA」と書いてあるのがなんとも・・・。

 それを見てから、奇岩のあるところまで進む。見えてくると、堤防に大きく絵が描いてあって(落書き?)、そこからじゃ写真が撮れなかった。むぅ! つまんない!
 近寄って見ると、その岩、何種類かの石で出来ているらしくて、柔らかい部分が風に多く浸食され、堅い部分が残っているので、奇妙に柔らかい丸みを帯びた形ができあがってるようだ。
 その岩の向こうを覗くと、テュニジア人が船に乗って漁?をしていた。何を獲っているのかな・・??

 その岩を横目に見ながら、堤防を歩いて行く。堤防の先の方では、テュニジア人が何人か、海を見ながらぼーっと話をしていた。・・・って、なぜに外国人は私たちだけなの?!
 いいねー、この潮の香り!とか思っていると、突然目の前の女の人が「きゃっ」と短い悲鳴を上げた。何かと思えば、彼女の男友達が何かを投げてきたようだ。Sちゃんと私も、何だ何だ?と視線を釘付け。その黒い物体・・・・ウニだった。いや、たぶん、ウニだと思う。
「これ何?」と彼女が訊くと、向こうの方で男がテュニ語でなんとかと答えた。「何? 聞こえない。こっち来てよ」そーだそーだ、と我々も助長する。男は我々のところまでやって来て、説明を始めた。
「これは、**という奴だ。フランス語で言うと**。黒いだろう、こいつはオスなんだ。赤い奴はメスで、食べれるんだよ」
 ・・・・私は、そのとき聞いたテュニ語もフランス語も忘れてしまったんで、ごめん。
 へーえと感心してたら、男が「ほら、あっちにいっぱいあるよ」と私たちを手招きして、よく見える場所へ連れていってくれた。比較的浅いところ、岩がかたまっているところに、黒いのがいっぱいくっついていた。
「ほんとだー^^」
 なんかそういうのを見ると嬉しい。
「あっ、見て見て。あれ赤いよ。ねぇねぇ!」
 私はその彼を呼ぶ。「ああ、あれがメスだよ。食べられるよ」
 そう言って彼が背後に姿を消すと、私はTくんに言った。「ね、あれ採ってきてよ」ところが、Tくは動く姿勢を見せない。代わりにSちゃんが、「じゃ行ってきます」と言うので、「えーっ、私も行く!」と二人でTくんに荷物を預け、堤防から岩へと渡っていく。
 なんか女の方がアクティブだったりして(^^

 うまいこと岩を渡っていって、目的地に到着。堤防の方でTくんが「あ、そこにありますよー」と言うので、あちこち探る。
 「あった」
 一つ発見したら、あちこちの石にくっついているのがすぐに見て取れた。水はまだ冷たい。手を伸ばして掴もうとするけど、硬い。しっかり石にしがみついてて、なかなか取れない。Sちゃんが手頃な石をとってきて、それでガンガンやるんだけど、棘が折れるだけで効果なし。なんでー?!
 Sちゃんと交替々々で石を使うけれど、なっかなか動く気配なし。・・・と、Sちゃんが「あ、取れました!」と嬉しそうに言った。「ほんと!?」見ると、しっかり赤いウニが手の中に・・・。「すごいすごいっ」 続けてSちゃんがもうひとつget。なんで私がやると取れないのー?!
 「ねーえ、写真撮ってーぇ!」
 Tくんに記念写真を撮ってもらう。
「私たち、何してんだろーね。運転手、何やってんだーって、待ってるよ(笑)」

 Tくんのところまでそれを持っていって見せると、「じゃ、それ割って下さい」。え゛!?「それ、生で食べて下さいよ」。え゛?! 
 「そんなことするんだったら、あなたがやりなさいよぉ」と、私は石を手渡す。・・・けど、Tくんはしないのだった。・・・

 ウニを下に置き、じーっと見てると、歩くんだよ。かわいい。
「これってウニなんですかねぇ」
「じゃないの?」
「ウニって、もっと全体が丸いのかと思ってました」
「あ、私もそう。これって、下がちょっと平たいよね」
 最初にSちゃんが採った大きいのは、色も薄くて、ちょっとぜぇぜぇいってる感じで、動きも鈍かった。
「なんかかわいそう。これ、海に戻した方がいいですね」
などと見ていると、後ろの方から声が掛かった。
「ジャパニーズ!」・・・来たぞ来たぞ。
 けど、私たちが見てるものに注目して、ちょっと声が止む。
「ねえ、見て見て!」と私がそのテュニジア人男女の集団にウニを見せると、彼らは近寄ってきた。そして、解説を始めたのだった。
「これはねぇ、++っていうのよ」
「え? **っていうんじゃないの?」
「うん、名前は***************っていうの」
「え? 何、もう一回」
「***************!」
 なんでそんなに長い名前なんだ?
「フランス語?」と訊いたら「ラテン語」と言われた。ってことは、学術名じゃないのよっ。この人たち、何者?! そう教えてくれた女の人が、「歯は5本あるのよ」と言った。・・・5本?
「ほら」
 ・・・・わからない。。。 彼女がウニをひっくり返して、口らしきところを指さすけれども、見えない。
 と、思ってたら、またしてもSちゃんが興奮した声で「あ、見えました!」。「ど、どこ?」「ここです、ここ」。じーっと見てると、ウニが呼吸しながら口が動くに合わせて、しーろいものが放射線状に浮かび上がってくるのだった。しかも5本! おおっ、これがウニの歯か!
 彼女たちは何者なんだ? 「ウニ専門なんですよ、きっと」「いや、ウミ(海)専門だね」私たちが、同じウニを、つんつん、つついている間に、彼女たちは岩場へと繰り出していった。おおっ、彼女たちも採るのか?!
 そして男たちは見物。おいおい、同じかい。

 そしてあぶなっかしい足取りで二人が、さっき私たちが行ったところへたどり着いた。そして私たちがやったように、つつくけれど、やっぱり取れない。そうなのだ、硬いんだもん。
 と、そこへもう一人が登場。見ている私たちは「彼女、絶対落ちるよ」って、彼女の一挙一動に注目!
 「私にやらせなさいよ」って感じでやって来て、彼女は大きな岩の上に立った。そして、その横にあるウニを狙うが、どうにもうまくいかないので、場所を変えることにしたらしい。5歩ほど向こうの小さい岩に足を置き、そうしてもう一歩、小さい岩に足を置く。置くが、その石、既に水面下にあったりして・・・^^ 「きゃっ」って足をあげるけど、アナタ、そりゃ「きゃっ」じゃないよ。自業自得よ。落ちるとは思ったけど、そんなお間抜けなはまり方でいいのかっ?! けど、私たちは「やったーっ」と大はしゃぎ。人の不幸を喜ぶ奴らよ、ふっ。

 彼女はその瞬間に諦めたのか、またもや移動開始。「手を取ってーっ」と仲間に手を伸ばすけど、おいおいおいっ。滑りそうだよっ。その度にこっちはひやひや、どきどき、次はいつやってくれるだろうっていう、妙な緊張がある(笑)

 とうとう見ていられなくなったのか、仲間の男が登場。おーっし、お前も行って笑いを起こしてくれっ。我々はすっかり「ショー」と勘違いして見ている。うーん、やっぱし面白い。

 行った男は、彼女たちをどかせると、結構簡単に一個取ってしまった。いやーん、なんでそんなに簡単にとってしまうのーっ。彼はそれを放り投げて、私たちに向かって、一個1ドルだ!と英語で言った。なんでやねん・・・。

 随分堪能したので、我々は移動することにした。車まで戻って「ね、次はあそこ」と運転手を促す。ビザンツ時代の要塞の跡。今は軍が使っているらしいので、私たちはその周囲を見学。夕陽を見たかったので、要塞の先端へ行きたかったのだけど、そこへ行くにはとーっても細い道があるだけ。道っていうかさ、ほとんど建物の壁だけだよね、あれ・・・。私は途中で断念したけど、Tくんは一人ですたすたと行ってしまった。おぉい、戻ってこれるかー? 案の定「どうやって降りましょうかね」とか言ってるし。

 その要塞は丘の上にあって、その斜面がなだらかなところは、少し低いところまで下りれるようになっている。そこなら日が当たっているから、太陽が見られるかも?! 
 景色を堪能して、おーっし、戻るぞ。カフェ行こうか?なんて言いながら車へ戻ると「遅いっ」と言われた。そ、そうかな?
 それからカフェへ行って絞り立てオレンジを飲み、5時すぎかぁ・・次どうしようかな・・・なーんて思ってたら「帰るのにどれくらいかかるんですか?」と訊かれた。おや、そういえばガイドには3時間はかかると書いていたような・・・あれ? もしかしてやばい? 全然考えてないな、こいつは・・・。なるほど、それで運転手がさっき「遅い」って言ったんだな。

 それから我々は車の中でひたすらに寝た。真っ暗になっても車は延々進んだ。どこをどう走っているのかさっぱり分からなかった。
 8時半過ぎ。とうとう街まで来て、車が路地に入っていった。どうやらテュニスに着いたらしい。八百屋や雑貨屋が並ぶ。ここはどこだ? 私とSちゃんは知った景色がないか、集中する。私は1年半、Sちゃんは1年、Tくんは半年、テュニスにいるのだ。私とSちゃんおテュニス歴の方が長いし、Tくんはあんまり動かないから・・・。
 大通りへ出た瞬間、二人で同時に「メディナの裏」と叫んだ。しかし、車はやたらに遠回りして行く。もしかしてスタート地点の学校まで戻るんだろうか?
「ね、どこまで行ってもらおうか。それより晩御飯どうする?」

 結局、車には学校の裏で停めてもらい、チップを10渡して運転手と別れた。そして、私たちはそこからすぐ近くの大衆食堂で夕食にした。

 うーん、満足。最後の旅、よくわかんなかったけど、楽しかったからいいや。イシュケルは動物見られなかったけど。ウニは面白かったし、お勉強になったね。

 私はSちゃんとタクシーをシェアして帰った。故意に道を間違えられてむかついたけど、そういうことは経験しなかったことにして忘れるのがいい。嫌な記憶を追加したくない。
 「よかった」、それでいいじゃない。そう思う。

 


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