南仏旅行の記録 ニースのクリスマスイヴ


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 そしてまたニースの朝だ。慣れてるからもうどこでも行けますって感じ。

 今朝は連れの部屋のポーランド人と一緒に出かけることになる。昨日の晩のうちに、彼が建築関係の仕事を探しに来ていることは連れに聞いていたので、彼がいきなり看板を見てメモを取りだしても気にしない。
 彼はみかんが好きらしい。ユースの庭に生ってたみかんをもいで、一人でおいしそうに食べ、何度も「ニースはいいところだ、とても暖かい」と言った。「僕はオランジーナ(オレンジのことらしい)が好きだね。それにコーヒーは嫌いだ。紅茶の方が断然いいよ」。けど今朝、彼は紅茶があるのを知らなかったのか、カフェオレを飲んでいた・・・。

 最初は彼の話をまじめに聞いていた。「あなたはアレルギーが出てるね、そういうときは人参をすりつぶして・・・」とか、「ニンニクをぬるといいよ」とか言う。「ねえ、それはポーランドでよくやることなの?」って訊いたら、うんとは言わない。それがいいんだよ、とか言う。「健康的なのは、パスタをよく食べることだ。君たち日本人は米ばかり食べるけど、週に半分にした方がいいよ。そしてお肉なんか食べないで・・・」。そこで私がまた「どうしてそれがいいの?」と訊くと、「栄養的にはこれが一番だね。僕はいつもそうしてるよ」とか言う。話にならない・・・。そして彼は人の言うことを聞かない。とにかく自分の話ばっかりしている。それが面白ければ聞いてもいいけど、同じ話ばかりだし、要領を得ない。それに、彼の英語は習い立てとか言うフランス語と混ざるし、よく分からない。たぶん、フランス語を解しない連れは、余計分からないんじゃないかな。

「この人、どこまでついてくる気だろう・・・」

 私たちの心配はその一点。いくらなんでも美術館までは来ないだろう・・・と思って、シャガール美術館に近づいたときはほっとした。
「じゃ、私たち、美術館へ行くから」
 ・・・しかし、彼はついてきた(
TT)
 そして、受付で値段を聞くと、私たちに向かって「高いな。よし、なんとかまけてもらえないか、僕が言ってくる」。はーずーかーしーぃからやめてーぇぇ(赤)。
 ・・・結局、お金が安くならないのを聞くと、彼は諦め、「じゃあまた」と去っていった。このときの私たちの安堵と言ったら、計り知れない。

 彼が去っていったので、安心して鑑賞することができる。

 まず、一際明るい部屋の方へ入ってみた。この美術館はシャガールの聖書をモチーフとした絵ばかりを集めている。私たちが入った部屋には、とても大きなキャンバスがずらりと並んでいた。鮮やかな色彩が目に飛び込んでくる。
 ・・・しかし、タイトルを読んでみてもあんまり訳が分からない。どういうことなのー?? 聖書を知らなかったら、さっぱり分からないじゃないのーーっ。ノアとか、アブラハムとかは分かるけどさ・・
 私たちが次の部屋で唸っている間に、日本人のツアー客がやってきた。彼らは真っ直ぐにこちらの部屋にやって来ると、ガイドがパパパと説明して、そして去っていった。

「そんな解説されたって・・・。ここ、シャガールの愛妻との愛の記録だって? それにしちゃむちゃくちゃ暗い・・・」

 そう、その部屋は先の部屋に比べて、暗く小さかった。その小さな部屋は丸い造りになっていて、5枚ほどの暗めの赤を基調とした絵が並んでいた。
 しかし、私たちには、どこが愛なのかあんまり分からなかった。だって、暗すぎるんだもの。奥さん死んでから作ったのかなぁ・・・??

 その部屋を出て、入り口近くに戻り、もう一つの大きい部屋へと入っていく。その部屋は先の部屋に比べて小さい絵が多かった。デッサン的なものも多い。
 そして、絵を見ていくうちに気づいた。さっきの部屋は、ここの絵を下敷きにして完成させたものだったのだ!
 だから、ツアー客は、完成された絵だけを見てさっさと去っていったのだ。なるほどねー。

 でもね、この下書きの部屋を見ないことには、テーマがさっぱり分からないのだ。下書きっていうか、このアイデアの塊の部屋は、描きたい事柄がそのまま表されていて、初心者向けなのだ。だから、描きたい絵は、そのまま絵になっている。けど、完成された絵では、単に色として表現されていたり省略されたり、誇張が入っていたりして、初心者には大変分かりづらいのだった。

 聖書の絵というのは、いっぱいあるようでいて少ない。描きたい絵や描きやすい絵というのはある程度決まっているし、クリスチャンたちの頭の中で固まってしまったイメージも多いので、どこにでもあるようなものができあがりやすいのだと思う。
 だから、シャガールも、同じモチーフを、何回も描いている。下書きの部屋には、同じモチーフの絵が何枚もあった。それを順番に見ていくことによって、彼の伝えたいイメージが、だんだんに分かっていくのだ。

 私たちは、それを全く反対に見てしまった。完成された部屋を先に見て、下書きの部屋も逆に見てしまった。だから、最後に来てようやく「なるほど」と唸ることが出来たのだった。
 それで、最後にもう一度、完成された絵の部屋に入ってみた。・・・むちゃくちゃ分かる。ああ、なんだ、この絵はあれだったのね・・・って、すんなり理解できる。そう、たとえ聖書をよく知らなくても、だ。

 だから、教訓。美術館なんかは、ちゃんと順番通りに見ましょう。

 なんで、順番こっちって書いてなかったのかな。これもやっぱりツアー客向け??(念のために書いておきますが、番号は振ってありました)

 そのあと12時頃に、本屋に入ってまたテキストを探す。目的のものがないとなると、次に見るところはもう大体決まってくる。漫画のコーナーと、文庫本のコーナー。日本作品の仏語訳、どんなものが出てるかなって見るのだ。短くて分かりやすいのがあれば買っていこうかなって思うから。

 お食事となると、もう場所は決まってる。旧市街だ。なーんかいいものないかなー? スーパーに入ってみるのもしょっちゅうだけど、今日は入らない。
 お総菜屋さんみたいな店があって、そこでボリュームたっぷりのピザを発見したので買う。12FFなんて、安いよねぇ・・・
 今日は既に2時を過ぎているから、昼休みの間の時間つぶしの必要はないのだけど、それでもなんとなくまた海岸でぼーっとしてしまう。マントンやモナコじゃ、座るところを探すのも面倒だったけど、ニースは海岸に座り込めるからいいなぁ...
 昨日買ったキウイやビスケットも一緒に食べる。さみしい食事? いえいえ、これが旅行の醍醐味ですから・・・

ニースの旧市街

ここで変わったリキュールを売るお店を発見。カフェリキュールとか、オリーブリキュールとか・・・。入れ物の瓶も可愛いし、お土産に最適♪ けど、移動のことを考えると買えなかったわ・・・ また今度ねー

 旧市街のお店を見ながら「シャトー(城)の方へ行こうかなー」とか話していたんだけど、また本屋に入ってしまったら、もう5時近くになっていたので、やめることにした。
 えええ? 今日って本屋しか入ってないじゃないか・・・! しかも、目的のものはまだ見つからない・・・(涙)

 デパートにまた本屋を探しに入ったら、食料品売場で捕まる。うーん、この紅茶、試してみたいなぁ。どうせ今日イヴだからって、ケーキ買うつもりでいたし、一緒に紅茶もいいねー。・・・というわけで、急遽、紅茶購入。

 さて、ちょっとくらいリッチにお食事しましょうか。
 旧市街向けて歩き出す。「時間あったら、一回観覧車乗ってみようよ」とか言いながら。

 とーこーろーが。

 おやおやおや? 店が閉まってる。店終いが早い。
 えええ? だって、フランス人って7時から7時半くらいにお食事するんじゃなかったの?(最初中華を食べたとき、その時間が一番込んでいたから、そうだと判断した) なのに、なんで? まだ6時でしょー?!
 そうか、クリスマスイヴだから早く閉めちゃうのね。やばいわ。

 昼間のうちに見た移動動物園の真ん中にあったステージで、賛美歌を歌ってる人たち発見。連れが見たところによると(私は背が低い・・)、奥に劇の準備もあったんだとか。けどー、ここで悠長に見てたら、食事を逃してしまう!
 私たちは考える間もなく、昼間は言ったお総菜屋さんに飛び込んだ。
「Bonsoir・・・」
 そして、サラダだのお肉だの、細々とディナーを買い込み、お店を後にしたのだった。

 つーぎーはっ、ケーキよぉぉぉ。これなくしてイヴは過ごせないわ。去年はエジプトにいたから(エジプトのクリスマスは旧暦でするから)イヴなんて関係なかったし! 今年はフランスにいるんだもの、ケーキ食べなきゃ駄目! 
 そう、女っていうものは、ケーキにこだわるのだ・・・

 というわけで、連れをあっちこっちと引きずり回し(旧市街から新市街のメインストリートまで)、ケーキ屋を探すけど、なんで? どうしてないかな? どこもかしこも閉まってるよー
 しかたない、じゃあイヴのケーキは諦めて、明日のクリスマスにケーキ食べようかな。朝、カフェに付き合ってね♪ ・・・なーんて言ってたら、一軒発見。8時まで開いてるってことだったので、キープしておいて次を探す(だって、あんまり欲しいのなかったから)。

 ばたばたしてるうちに連れがまた本屋を発見してくれた。その名もソルボンヌ。うーん、いかにも「ありそう」な本屋だ。
 ・・・そして、私は見事に「音声」のテキストと付属のカセットテープを購入。はああ、これで今回の旅行の目的の一つを達成ぃぃ。思わずにんまりしちゃった。
 ほんっとに、今日一日は本屋で終わってしまった。何軒回ったんだ、私・・・? しょーもないのに付き合ってくれてありがとうねー☆

 で、うまい具合にお店発見♪ しかもおいしそうなケーキが選り取りみどり。今にも閉めそうにカフェの部分だけ閉まってたけど、持ち帰りはOKらしい。ブッシュ・ド・ノエルも食べたかったけどね、一個が60とか70FFとか平気でするんだもん。諦めましたよ。いいの、フランス菓子はおいしいから、なんでも・・・

 やたらと動き回って疲れた私たち、ユースに帰ると、今度はあの陽気なおばちゃんもおじちゃんもいない。今度は一体誰が留守番なんだーー?!

 まあとにかく勝手に台所に進入し、食器を借りると、さっさと食事を済ませる。
 うーん、こいつはちょっとイケてない・・。このサラダはおいしい・・・

 で、デザートのケーキの前に、連れが食器を洗いにいった。その間に例のポーランド人がやってきた。買ってきた紅茶を広げて用意している私に、彼は「あ! この紅茶、とってもいいんだよ。いいなあ、僕もご一緒していいかな?」と言った。彼が紅茶が好きだというのは、今朝イヤというほど聞かされていたし、そう言われて断る理由もなかったので、私は「いいよ」と答えた。

 連れが帰ってきて、新しいフォークとカフェボールをテーブルに置いた。ポーランド人がいるのを見ると、もう一つボールを持ってきた。・・・

 私たちはこのケーキで、さっきのちょっと油っこいご飯の味と、今日一日の疲れを癒そうと思っていたのだ。
 話に花を咲かせて、紅茶の味を批評しながら味わうつもりだったのだ。

 ・・・・・・

「この紅茶は匂いがいいんだよ。うーん、いいねぇ。紅茶っていうのはね、一日5回飲むといいんだ。そして毎回その量を減らしていくんだ・・・」

 こうして、彼の話が始まった。根拠があるとは思えない、彼の信念による話だ。それにしても彼は妙なことばかり吹き付けたがる。

「僕がホンダに乗っていたときにね」
 彼のバイクの話も、何回か聞いた。事故った話は初めてだったけど。その事故の模様を詳しく聞いたところで、興味深い事柄があるわけじゃなし・・・

 私たちは2種類の紅茶を買っていたので、もう一つを試そうとお湯を汲みに立ち上がる。・・・そして彼も、自分も欲しいと言う。こーれーはっ、私たちが自分たちのために買ったのよぉぉっ
 まったく、彼は遠慮というものを知らない。っていうか、外国人はそういう人が多いみたいだけど。で、日本人が遠慮するんだって言われるんだけど。でもでもっ

 いい加減、私も疲れてきた。昨日、連れが夜にうちの部屋に来たわけがよく分かった。逃げてきたのだ、彼の話から。こんなのに捕まってたら、神経が疲れて仕方ない。

 私は彼の話を聞きたくなかったので、「ごめん、もう一杯飲むわ」と席を立った。そしてお湯を入れてきて、また一杯飲む。
 だが、これがいけなかったらしい。私が3杯目を飲んだので、彼が自分も欲しいと言い出したのだった。もちろん、断る理由は見つけられなかった。

 ああああ、ごめんなさいぃぃぃ。そしてまた長々と彼の話が続く・・・
 私は、もう駄目だと思い、机の上を片づけ始めた。はい、それもゴミねー、こっちにちょうだいねー、、、とさっさと片づけていく。連れも手伝い、そして頃合いを見計らって時計を見、「私たち、もう戻るね」と言って、自分たちの食器を片づけた。
 彼は、実は散歩に行くところだったので、自分の食器を片づけると、じゃあ行ってくるよ、と出かけていった。

 彼が去った後。
「なんで、あいつを誘ったんだよ」
と、非難された・・・
「しょーがないでしょー、自分から欲しいって言ってきたんやから。紅茶が好きって言われたら、そうですか、じゃあどうぞって言うしかないやん!」
 まるで痴話喧嘩だ。
「とりあえず、彼が散歩から戻ってくる前に、また逃げてくることだね」
「もちろん」

 ・・・・・・というわけで、やたらと疲れた一日が終わった。今日は一体何をしたんだ? 写真は一枚も撮らなかったし、本屋にしか入ってないし、午前中のシャガールだけ??

これが私の部屋の洗面台。ユースにしちゃ綺麗でしょ。シャワーもこの続きになるので小綺麗だ。でも、共同の洗面台とかは、もう少し「らしい」感じだった。

25日撮影(^^ゞ

 私たちは彼の長い話を頭の中から払拭するまで、延々話をしていたように思う。なんか頭が浸食されてる。私もお喋りな方なのに、彼のおかげで喋れなかったし(英語で喋るとすると疲れるけど、一応彼は簡単なフランス語は分かったし)。となると、その反動でか、二人とも喋る喋る。
 まあこういう外国人と触れあうのも度の楽しみの一つだし、過ぎてみればいい思い出。・・・ってことにしとこう。

 明日、彼は10時11分だかの電車に乗り、私は10時15分くらいの電車に乗るので、9時15分に出かけることにした。

 連れには5日間もお世話になりました。どーもね♪

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